最終更新  2005/09/ 4

猛禽類の調査に関するガイドライン (案)


 ※ 以下,今回更新部分は太字にしています.


1.本ガイドラインの目的

 このガイドラインは,事業計画のために猛禽類の調査研究を行う調査者が,
 猛禽類の将来にわたる生息に悪影響を与える事なく調査を行うために,
 取り組むべき基本項目を定めることを目的とする.

2.調査の方向性の決定

 猛禽類の調査に着手する前に,まず調査の方向性を定める.

 ・どのようにして保護を進めるか

      1. 保全の重要性の認識
         事業の施主を含め,行政,研究者などがその対象種に関して資料や情報を
         共有し,事前にその猛禽類の保護保全の重要性を認識する.

     ・環境省(あるいは県など)も含めて事前に打ち合わせをする.

      2. 必要な調査内容の確定
         必要な調査内容(項目および調査を行う範囲)とアドバイザなどを決定する.

      3. アドバイザ(専門家)の決定  ※コラム1参照
        環境省,あるいは県に推薦してもらう.
    アドバイザの決定は非常に重要です.


3.調査の開始直後

      1. 調査の方向性の確認および修正
    調査地に生息する猛禽類の行動について,おおまかに把握できた段階で,再
        度関係者間で意見交換する.必要であれば調査の方向性や調査内容について
        修正する.


      2. 巣の調査の必要性の要否 ※コラム2参照
        調査の方向性や調査内容から,詳細な巣の調査が必要かどうか審議する.通
        常は不要.
        (詳細な巣の調査とは,比較的巣の近く,あるいは巣の横に行き,主にヒナ
          の成長や給餌内容などを詳細に調査する事を指す)
        
          必要でない場合は6(巣にこだわらない調査)へ.

4.詳細な巣の調査が必要な場合

 ・詳細な巣の調査は,研究で行う場合以外の,例えば事業計画のアセスメント等で
  は不要です.

 ・詳細な巣の調査が必要な場合とは,以下のような場合を指すが,猛禽類の専門家
    の意見を聞きながら,慎重な判断を要する.

      1. ヒナの成長段階を詳細に把握する事で,産卵開始時期や巣立ち時期等を詳
        細に把握する事などが,開発行為の開始や中止に影響を与える場合.

      2. ヒナの成長段階の詳細な把握が,学術的に貴重と思われる場合(ただしこ
        の場合,学会誌等の以後第三者が引用可能な文書に掲載し,広く結果を社会
    に公表する事を条件とする.


5.詳細な巣の調査の実施方法
      詳細な巣の調査の実施方法として,最低限以下の事を厳守すること.

(1)比較的巣の近辺(巣から500m程度)で調査する場合.

   1. 巣への影響を考え,巣の近辺での調査は,可能な限り少人数で行う.

   2. 巣の近辺での目立つ行動(大声での会話など)を行わない.


(2)巣の横や周囲(巣から100m以内)で調査する場合.
      巣に接近する場合は,巣の情報が周囲の通行人やハイカーなどの第三者等に流
      れないように,特に厳重に注意する(密猟の原因となる:巣の情報は鳥の個人
   情報と考えること).

   1. 抱卵期には接近しない.

   2. ヒナがある程度成長していること(通常孵化後1ヶ月以上経過後).

   3. 雨など悪天候の時には巣に近づかない.

   4. 対象となる種やつがいの調査結果から,ヒナへの給餌頻度が最も少ない時
    間帯に接近する.

   5. 巣の近辺への滞在時間は,可能な限り短時間にする.

   6. 接近中でも,巣や親鳥への影響が考えられる場合は,すぐに接近を中止す
    る.

   7. 巣に接近する人数は,最小限にする.

   8. 調査は必ず複数で行い,巣に接近する人員以外は営巣谷全般を見渡せる場
    所で親鳥の行動を把握し,必要な場合は巣に接近する人員に無線で連絡する.

      9. 巣に接近する人員は,無線で伝えられた親鳥の行動から,巣への接近が親
    鳥に影響を与える事が想定されるようであれば,すぐに接近を中止する.


6.巣にこだわらない調査
      行動圏の把握など,巣にこだわらない調査を行う場合は,巣を中心に調査を行
   う場合ほどの影響はない事が多いと考えられるが,下記の点に十分注意する.

      1. 不必要に生息情報を流さない(密猟などの原因になる).

      2. 調査地とその周辺の住民に迷惑をかけない.


7.CCDを使用した調査  ※コラム2参照
      CCD調査といえども,必ず何らかの鳥への影響があるため,CCDでの巣の調査の
   必要性の要否について審議する.通常は不要.

      1. CCDを使用した巣の調査の必要性の要否
        調査の方向性や調査内容から,本当にCCDを使用した詳細な巣の調査が必要
    かどうか論議する.CCDでデータを取得後のデータの使用・解析方法まで,
    事前に決めておく.

      2. CCDを使用して調査するするつがいは,事前に十分に調査を行い,CCD調査
    に対して耐性があると考えられる場合にCCD調査を行う.

      3. 巣への影響を考え,あらかじめ繁殖開始以前に巣やその周辺にCCDを取り付
    けておくこと.

   4. 調査開始直後に,CCDが鳥に影響を与えていると思われる場合は,すみやか
    に調査を中止し,以後も行わない.

   5. 繁殖途中でCCDに異常や故障等があった場合,その年のCCDを使用した調査
    は断念する(機械の交換や修理は行わない).


8.テレメトリーを使用した調査
      テレメトリー調査は,鳥の個体に与える影響が他の調査に比べ非常に大きく,
   場合によっては死亡させる可能性もある危険性の高い調査のため,あくまで
   目視調査を中心に考えること.通常は不要。

   テレメトリーを使用した調査を行う場合でも,必ずしっかりとした目視調査
   を併用して行うこと。


      1. テレメトリー調査の事前調査
    テレメトリー調査を行う前に,十分に対象とするつがいを目視調査してお
   く.

      2. テレメトリー調査の事前準備
    テレメトリー調査を行う前に,テレメトリー調査で確実に個体を追跡できる
    組織づくりを行う。確実な個体追跡のために,現在テレメトリー調査を行っ
    ている場所で,追跡練習を行わせてもらう.

      3. 安全な捕獲方法の検討と準備
    テレメトリー調査の必要性の検討と同時に,対象となる個体の捕獲方法の検
    討を行う。安全に捕獲できる可能性が高ければ,テレメトリー調査を行う.

      4. テレメトリー調査の必要性の検討
        十分に目視調査を行った後で,個体追跡の組織も出来,安全な個体の捕獲も
    可能な場合,調査の方向性や調査内容から,本当にテレメトリーでの調査が
    必要かどうか論議する。テレメトリーを行う事による鳥への影響や危険性な
    どのリスクを十分に考慮し,テレメトリー調査で得られるデータがそれらの
    危険性を上回り,調査を行う必要性がある場合にのみ,テレメトリーでの調
    査を行う.

      5. 捕獲は,獣医等専門家の立ち会いのもとで行う.





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 コラム1.

 猛禽類の保護において,専門家(アドバイザなど呼び名はさまざまです)はとても
重要な存在です.保全策が適切に行われるかどうかは,専門家の判断によるところが
大きいと思われます.そのため,専門家の選定に関しては,以下の2つの項目が必要
で重要な点と考えられます. 

 A. 調査対象種に対して,本人が報告したものがある(原著論文など)
 B. 調査対象種に対して公的なシステムがあり,それに係わる身分がある(環境省の
   委員など)

 少なくとも上記2つの項目が満たされていて初めて,その調査対象種の専門家であ
ると考えられます.
 特に,保護策をたてる場合は,調査データをもとに現地の状況に合わせて,各
対象種の調査経験から保護策を考えるなど,高度な判断が必要とされる場合が多く,
そのため A は特に重要です.


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 コラム2. 
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2. 巣の調査の必要性の要否
        調査の方向性や調査内容から,
     詳細な巣の調査が必要かどうか審議する.

7.CCDを使用した調査
          CCD調査といえども,必ず何らかの鳥への影響があるため,
          CCDでの巣の調査の必要性の要否について審議する.
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これらの調査には,事前にしっかりとした必要性の審議が必要です.
必要性の審議のための規準として,以下のようなものが考えられます.


環境影響評価法の規定による環境保全措置の検討に当たっての留意事項

環境保全措置を@回避,A低減を優先し,必要に応じてB代償から選択すること.

@回避(廃案,代替案,計画地変更等)は保全上最も有効な影響保全措置であり,分
布又はおおまかな行動範囲が把握できた段階で実施できる場合が多いため巣の調査,
餌内容調査は不要な場合が多い.

A低減(位置的,面積的,時期的)は利用頻度,巣からの距離,繁殖段階などなんら
かの定量的な規準を設けて行なうことが望ましいため,@に加えて営巣地調査が必要
になる場合が多い.

B代償(営巣地,狩場)は失われる生息場と代償する生息場の定量的な評価が不可欠
なため@,Aに加えて生息場好適性評価,餌内容・餌動物密度調査なども必要になっ
てくる.

これには調査研究に多額の出資が必要となるだけでなく,代償行為の成否に不確実性
が伴う.
さらに猛禽類の生息場代償によって,失われた生息場の生態系損失は免れず,猛禽類
がアンブラレ種として機能していないことになる.
代償は回避,低減ができない止むを得ない場合の措置とするべきである.


*自然再生推進法等にもとづく復元研究においてはBと同じく復元前の生息場と復元
 後の生息場の定量的な評価を行なうことが望ましい.


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コラム3.(以下全文太字)

 上記ガイドラインの内容は,最初に述べたように事業計画のための調査者が対象で
すが,内容の対象として,当然研究者もあてはまります.研究者の場合,特に事業計
画のための調査者の模範となる行動が求められます.悪い先例となる事がないように,
十分気をつけながら研究を進める必要があります.