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クマタカ

Mountain Hawk eagle

Spizaetus nipalensis orientalis


森の王者クマタカ



              クマタカの現状について
 

クマタカ の現状について


 クマタカは、タカ目タカ科に属する大型の猛禽類です。
 「タカ」と名前についていますが、形態分類的にも、また体の大きさからも、れっきとしたワシで、世界的には、日本を代表するワシとも言われています。
 なぜ、日本では、標準和名(図鑑の名前)にタカと付いたかですが、おそらくその翼の模様からきていると思われます。つまり、翼の しま模様を「タカフ(鷹斑)」と言い、日本では、それが付いているタカ科の鳥を、「〜タカ」と呼んでいたからだと思われます。ちなみに、「クマ」とは、日本古来の言葉で、大きくて力強いものに付けられる呼び名です。つまり、クマタカとは、「大きくて力強い猛禽類」という意味なのです。

 クマタカは、日本では、北海道から九州まで広く分布しますが、世界的には日本、台湾、マレーシア、インドの一部、スリランカなど、アジア大陸の海に近い部分、いわゆる熱帯雨林のあるごく狭い範囲にしか生息していません。つまり、世界的に分布域が狭く、個体数も少ない希少な鳥なのです。その中で、日本は、クマタカの分布の北限となっています。そして、日本のクマタカは、ごく近くの台湾のクマタカとも異なり、別の亜種(種のもうひとつ下の分類のレベル)に分類されています。つまり、日本のクマタカは、世界中で日本にしか生息していないのです。日本のクマタカは、日本で守っていかないと、この地球上から絶滅してしまうのです。日本のクマタカの未来は、日本人の手にゆだねられているといえるでしょう。


 私たち、広島クマタカ生態研究会が研究活動を始めた1980年初頭は、私たちの調査フィールドである西中国山地のクマタカは、毎年繁殖し、ヒナを巣立たせていました。その頃、クマタカと同様に、森林の食物連鎖の頂点に立つイヌワシでは、すでに繁殖成功率の低下など、危機が言われていました。同様な立場に立つクマタカも、もちろん多少の危機は言われていましたが、正直なところ、その当時の私たちは、「クマタカは大丈夫だ!」と思っていました。毎年産卵し、ヒナが巣立っていたからです。しかし、それから数年すると、なにか変な事に気づき始めました。どうもこのところ繁殖していないペアがいるのです。しかし、その時はなんらかの事故で繁殖に失敗したのだろうくらいに思っていました。しかし、それから数年後、気づくと、すでに、繁殖していないペアが半分以上を占めていました。偶然や事故ではなかったのです。あわてて繁殖成功率をグラフにしてみると、あきらかに、急激に低下していました(図 参照)。そして現在、西中国山地のクマタカは、非常に良くても1年おき、大多数が、平均4〜5年に1度くらいしか繁殖しなくなっています。長いものでは8年ぶりというペアもいます。毎年の繁殖成功率は、残念ながら、もはや10%を上回ることはありません。このことは、つまり、次世代のクマタカがほとんどいない事をあらわしています。つまり、現在生きているクマタカが死にはじめると、急速に個体数を減らし、一気に絶滅してしまう種類と考えられるのです。
  実際に、広島県では、少しずつ、かつてクマタカが生息していた場所から、クマタカが姿を消し始めています。クマタカは寿命が長いため(おそらく、少なくとも30年以上は生きると推定されます)、今はまだ急激な減少は見られませんが、現在のままでは、近い将来、本当に幻の鳥となってしまうでしょう。