クマタカ の繁殖成功率の激減について
2000年7月14日、環境庁(現:環境省)記者クラブにて、過去20年間のクマタカの繁殖成功率の変化について記者発表させていただきました。
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クマタカの繁殖成功率の低下について
2000.7.14
クマタカSpizaetus nipalensis orientalis は、いわゆる「種の保存法」と、環境庁のレッドリストの絶滅危惧TB類(EN)に共に記載されている、絶滅のおそれのある貴重な大型猛禽類です。近年、人間の開発行為との共存問題が多くなり、社会的にも注目を集めている種類です。
クマタカは非常に調査が困難な種類で、他にこれまで長期の繁殖成功率のモニタリングを実施できている組織がなく、今回、NGOの広島クマタカ生態研究会が20年間のモニタリング結果を初めて公表させていただきます。
調査は、1981年〜2000年の20年間、主に西中国山地の広島県と島根県で行ないましたが、少数ですが、四国と九州の調査データも含まれています。さらにそのうちで、1981〜1985年、1986〜1990年、1991〜1995年、1996〜2000年を5年ごとに区切り、比較を行ないました。
クマタカは、20年ほど前までは、毎年1個の卵を産みヒナを巣立たせ、その繁殖成功率は、毎年ほぼ100%近かったのですが、この20年間に急速に繁殖状況が悪化し、特にここ数年はひどく、年によっては10%を切るほどまでに低下してしまいました。
1980年初頭までは、毎年産卵していましたが、1980年後半から1990年にかけて急速に繁殖成功率が低下し、特に1990年後半には、年によっては10%を切るほどまでになってしまいました。年により多少ばらつきがあるため、可能な限り正確な状況を把握するため、5年ごとの平均を取っていますが、1981〜1985年が80.0%、1986〜1990年が61.7%、1991〜1995年が36.8%、1996〜2000年が12.3%と減少傾向に変わりはなく、非常に危機的な状況です。
今回の調査結果を、全国のほかの地域の研究者の話と照合してみると、数値に若干の差はあるものの、全国的に同じ傾向であることがわかりました。また、全国で本会ほど長い期間にわたり、しかも最大47つがいも調査できているデータは他にないため、今回の公表結果は、全国の代表事例であると言えます。
近年の調査から、クマタカは、従来言われていたよりも個体数が多そうだと言われています。しかしこのデータから、クマタカは、例え生息はしていても、ほとんど繁殖していない状況、つまり次世代がほとんどいない状況であるということがわかります。クマタカは、非常に寿命の長い種類と推測されるため(おそらく30年以上)、現在のところ減少はほとんど目に見えていませんが、このことから、近い将来、急速に個体数が減少し、絶滅に向かう危険性が非常に高い種であるといえます。
生態系の頂点に位置する繊細な種である猛禽類の状況は、「環境を測るバロメーター」であり、環境の状況を如実に映し出す鏡です。その繁殖成功率の低下は、私たちの身近な部分からの環境の悪化が、近年さらに進んでいることを示しています。
繁殖成功率のわずかここ20年位の間の急速な減少原因としては、複合的な原因が考えられますが、主要なものとして、PCBなどの化学物質の体内への蓄積が考えられます(※
1参照)。
・以上の調査結果の詳細は、次回発行予定の本会の機関誌「クマタカ の生態 第3号」に掲載される予定です。
広島クマタカ生態研究会 代表 飯田 知彦
(以上、当日配布資料より、ほぼそのまま転載)
※ 1
繁殖成功率低下原因は、さまざまな要因が考えられ、現在調査中ですが、現在のところ、特にこれが原因だと言いにくいのが現状です。
まず考えられるのが餌となる動物の減少ですが、確かに広葉樹林の伐採などによる小動物の減少はあり、また近年特にノウサギが減少しているようです。
しかしクマタカは、多種多様な動物を補食し、以前考えられていたようにノウサギなど特定の動物に固執していない事や、ヒナへの給餌頻度も以前と比べ落ちていない事などから、餌が主要な原因ではないと考えられます。むしろときおり補食するキツネやタヌキなど、増えている種類もあります。海外では、PCBなどの化学物質が影響を与えると判明しており、私たちの採取した未孵化卵の解析でも混入が認められました。
しかしこのいわゆる環境ホルモンが、親鳥や卵、ヒナにどの程度影響するかについては、現在まだ調査中です。これらの事から、繁殖成功率低下の事実はあるものの、残念ながら原因については、まだ断定できる段階にはありません。
これからの、私たちを含めた研究団体や研究者、さまざまな各方面からの原因解明が待たれます。
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